かゆみ、赤み…他にもある?【意外と知らない】皮膚に現れる肝臓病のサインとは|医師が解説


肝臓病を早期に疑うために必要な、身体に現れる危険信号とは?医師が解説します。
「肝臓病」とは?
肝臓は右わき腹の肋骨内側部に位置しており、人間の体の中で一番大きな臓器であり、成人の肝臓重量は約1.4kg前後と言われています。
肝臓の主要な働きは大きく3種類存在しており、必要な物を作る(精製)、必要な物を貯める(貯蔵)、不要なものを処分する(解毒)役割を有しています。
肝臓病とは、肝炎ウイルスや飲酒歴などを始めとする生活習慣などによって肝臓臓器に様々な障害が引き起こされる病気を指しています。
よく知られている代表的な肝臓病としては、肝臓に炎症をきたす急性肝炎あるいは慢性肝炎、そして慢性の肝障害が進行して肝臓が硬く変化してしまう肝硬変、ならびに肝臓に発生する悪性腫瘍の肝臓がんなどが挙げられます。
これらの病気を発症すると、倦怠感や食欲不振、黄疸などの症状が認められる場合がありますし、皮膚の変化がなくても全身がかゆい症状を認める際にはもしかすると肝臓病が潜んでいる可能性が考えられます。
一般的に、肝臓病の中で罹患者数が多いのがウイルスによる肝炎であると言われており、数ある肝炎ウイルスタイプのなかでも特に母子感染や輸血、性行為などにより感染するB型とC型が多いと伝えられています。
アルコール性肝炎のケースでは、飲酒習慣のある人が飲酒量を急に増やすと肝臓に炎症が起こして、初期には肝臓に脂肪が沈着する脂肪肝の状態になり、その後飲酒を継続すると肝線維症や肝硬変に進行します。

そして、ウイルス性肝炎に罹患している方があわせて飲酒習慣を続けてしまうと肝細胞癌など発がん率が健常人よりも高まることも知られています。
また、自己免疫性肝炎では本来であれば自己防衛するはずの免疫機構が肝臓を攻撃することで炎症をきたして発症する病気であると伝えられています。
最近では、お酒を飲み過ぎた人が発症するアルコール性脂肪肝と異なる機序で飲酒しないのにもかかわらず肝臓に脂肪が沈着する非アルコール性脂肪肝が注目されており、この場合も同様に肝臓病に進行することが指摘されています。
このように、非アルコール性脂肪肝の状態から肝硬変に進行悪化したレベルまでを含む一連の肝臓病を「非アルコール性脂肪性肝疾患」(NAFLD)と呼称しています。
そして、このNAFLDのうち15%前後の人は不幸にも病態が徐々に悪化して、末期肝硬変に進行し肝細胞癌を罹患する群が存在し、脂肪肝から進展悪化する肝臓病をまとめて「非アルコール性脂肪肝炎」と呼んでいます。
「肝臓病」のサイン
肝臓病において自覚される症状には多種多様ではありますが、代表的な症状のひとつに「皮膚の痒み」が挙げられます。
皮膚の痒み
慢性肝臓病を患った方が訴える皮膚の痒み症状は、肝臓で作成される胆汁酸の成分が皮膚に付着することで引き起こされるものと考えられています。
皮膚自体に有意所見がないにもかかわらず内面からかゆみを自覚し、塗り薬を使用しても改善しないなどの特徴を有しています。
手掌紅斑
「肝臓病」のサインのひとつとして、手のひらが赤くなる所見がみられることがあり、手掌紅斑やクモ状血管腫が考えられます。
手掌紅斑とは、肝疾患や肝硬変を抱える患者さんにみられる皮膚所見のひとつです。
主に、手掌、特に母指球、小指球および指の基節部に認める紅斑であり、圧迫すると消失し、圧迫を解除するとすぐにまた赤くなるという特徴を有します。

一般的に、手掌全体の皮膚の色調は、手を心臓の位置より下方に置くと血流移動によって手掌全体の色調は赤くなり、また逆に手を心臓の位置よりも上方に置くと手掌全体の色調は白くなると言われています。
手掌紅班においては、母指球、小指球、指の基節部に紅班が局在するために、相対的に手掌の中心部は白くなるという点が認められ、紅班部分と周辺部分との色調のコントラストを十分に評価するのが重要です。
実際の診断場面では、五本の指を軽く広げて伸展させて、心臓より高い位置で手掌を診察することによって色調のコントラストが明瞭となると考えられています。
また、手掌紅斑と同様に、肝障害を抱えている患者さんや肝硬変症例において認められる皮膚所見としては、クモ状血管腫が存在します。
クモ状血管腫
クモ状血管腫とは、直径が針頭大から1cm程度の中央の細動脈から多数の細く蛇行した毛細血管が遠心性に広がった皮膚所見であり、顔面や頸部、胸部、上腕部などを含む主に上半身で時折認められる皮膚症状です。
手掌紅斑とともにクモ状血管腫は、肝硬変に伴う内分泌環境の異常、特に女性ホルモンの一つであるエストロゲンの上昇に関連した血管拡張によって認められると言われています。
肝臓病は、気付いたときにはかなり病状が進行していることが往々にして経験されるために、肝臓病を早期に疑うために必要な身体に現れる危険信号を知っておくように心がけましょう。
まとめ
肝臓は「沈黙の臓器」と言われており、初期には自覚症状が乏しいこともあります。
気付いたときにはすでにかなり病状が進行しているということが少なくありませんし、場合によっては発見されたときにはすでに命に関わる状態であることも経験されるために、未然に早期的に肝臓病を疑うために十分に注意を払う必要があります。
明らかな皮膚科領域の疾患がないにもかかわらず、皮膚が痒い、あるいは手掌紅斑やクモ状血管腫などの皮膚所見を呈している場合には肝臓病を疑います。
また、最近になって吹き出物がでやすくなって肌が浅黒くなる、上半身を中心に赤い斑点が出現するなどの症状が認められる際には、肝機能が低下しているかもしれません。
心配であれば、肝臓内科や消化器専門外来などの医療機関を受診して、相談しましょう。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
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